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「名前入りタスキはダメ」という話
選挙に出ようと思ったとき、知名度がない人は、早く多くの有権者に名前を覚えてほしいものです。
しかし、「名前入りタスキは使っちゃダメ」とよく言われます。
「それ本当?そしてなぜ?政党とか街宣で使ってるじゃん!」
という疑問について、調べてみました。
※以下は2024年9月5日現在の法令を基に記載しています。各自の活動が公職選挙法に適応しているか否かはご自身で責任を持って調査、確認してください。当方は責任を負えません。
根拠法
「名前入りタスキ」は法律上、何に当たるのか?
選挙に関する法律は、公職選挙法(昭和25年法律第100号)です。
同法で選挙運動を規定しているのは第13章「選挙運動」のところです。
この章では、選挙運動の期間、選挙事務所の数といった基本的な基準や、特定公務員の選挙運動の禁止等といった、「あれはダメ、これはいい」という規定が書かれています。
その第142条に「文書図画の頒布」、第143条に「文書図画の掲示」という規定があります。
この第143条第1項では、
「選挙運動のために使用する文書図画は、次の各号のいずれかに該当するもの(衆議院比例代表選出議員の選挙にあつては、第一号、第二号、第四号、第四号の二及び第五号に該当するものであつて衆議院名簿届出政党等が使用するもの)のほかは、掲示することができない。」
出典:e-Govポータル (https://www.e-gov.go.jp)
とあり、
その第3号には、
「公職の候補者(参議院比例代表選出議員の選挙における候補者たる参議院名簿登載者で第八十六条の三第一項後段の規定により優先的に当選人となるべき候補者としてその氏名及び当選人となるべき順位が参議院名簿に記載されているものを除く。)が使用するたすき、胸章及び腕章の類」
出典:e-Govポータル (https://www.e-gov.go.jp)
と書かれています。
ここでやっと「たすき」が出てきました。
このことから、「名前入りたすき」は、公職選挙法上、「選挙運動のために使用する文書図画」に含まれることになります。
選挙時のルール
では、この「たすき」について、公職選挙法ではどのようなルールを定めているのでしょうか?
前述の同法第143条第1項では、同項に掲げるもの以外は選挙運動で使ってはダメ、と言っています。
つまり、同項第3号に掲げられている、公職の候補者が使用する「タスキ」は、選挙期間中ならOKということです。
それ以外のタスキ、例えば、候補者以外が使用するタスキはダメ、ということです。
だから候補者は皆さん、選挙期間中は「名前入りタスキ」を掛けているのですね!
これはOKということです。
選挙でない時のルール
さて、問題は選挙期間中以外です。
上記の規定によると、選挙期間中以外はダメだ、ということになります。
でも、上記の規定はあくまでも、「選挙運動のために使用する文書図画」についての規制です。
普段の政治活動で使用する文書図画についての規制ではありません。
※ちなみに、選挙運動とは、「特定の選挙において、特定の候補者につき、当選または落選をさせようとする活動」のことを指します。
「なんだ、じゃあ政治活動なら掛け放題じゃん」と思いますよね。
しかし、掛け放題では無いのです。
同法第143条第16項に、こんな規定があります。
公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。以下この項において「公職の候補者等」という。)の政治活動のために使用される当該公職の候補者等の氏名又は当該公職の候補者等の氏名が類推されるような事項を表示する文書図画及び第百九十九条の五第一項に規定する後援団体(以下この項において「後援団体」という。)の政治活動のために使用される当該後援団体の名称を表示する文書図画で、次に掲げるもの以外のものを掲示する行為は、第一項の禁止行為に該当するものとみなす。
一 立札及び看板の類で、公職の候補者等一人につき又は同一の公職の候補者等に係る後援団体のすべてを通じて政令で定める総数の範囲内で、かつ、当該公職の候補者等又は当該後援団体が政治活動のため使用する事務所ごとにその場所において通じて二を限り、掲示されるもの
出典:e-Govポータル (https://www.e-gov.go.jp)
二 ポスターで、当該ポスターを掲示するためのベニヤ板、プラスチック板その他これらに類するものを用いて掲示されるもの以外のもの(公職の候補者等若しくは後援団体の政治活動のために使用する事務所若しくは連絡所を表示し、又は後援団体の構成員であることを表示するために掲示されるもの及び第十九項各号の区分による当該選挙ごとの一定期間内に当該選挙区(選挙区がないときは、選挙の行われる区域)内に掲示されるものを除く。)
三 政治活動のためにする演説会、講演会、研修会その他これらに類する集会(以下この号において「演説会等」という。)の会場において当該演説会等の開催中使用されるもの
四 第十四章の三の規定により使用することができるもの
・・・はい、長くて読む気になりませんね。
でも法律に従わないと処分されちゃいますので、頑張って読みましょう。
最初のところは、
公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。以下この項において「公職の候補者等」という。)
とあります。「公職の候補者」は、明確な定義は書かれていませんが、既に立候補届を済ました人と考えてよいです。よって、公職の候補者というのは選挙期間中の呼び方ですね。
それに対して、「公職の候補者になろうとする者」とは、まだ立候補届を出してはいないけれど、なろうとしている人のことをいいます。今回の話の対象者がこの人ですね。
続いて、
(公職の候補者等の)政治活動のために使用される当該公職の候補者等の氏名又は当該公職の候補者等の氏名が類推されるような事項を表示する文書図画
と書かれています。公職の候補者等が、政治活動のために使う、かつ、その候補者等の氏名が直接書かれている、もしくは、その氏名を類推させるようなことが書かれている文書図画、がここでの対象です。
前述のとおり、「文書図画」には「タスキ」が含まれていますので、まさにこの文書図画への規制が、政治活動における「名前入りタスキ」への規制になります。
これに続き、
及び第百九十九条の五第一項に規定する後援団体(以下この項において「後援団体」という。)の政治活動のために使用される当該後援団体の名称を表示する文書図画で、
とあります。
同法第199条の5第1項は、
第百九十九条の五 政党その他の団体又はその支部で、特定の公職の候補者若しくは公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。)の政治上の主義若しくは施策を支持し、又は特定の公職の候補者若しくは公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。)を推薦し、若しくは支持することがその政治活動のうち主たるものであるもの(以下「後援団体」という。)は、・・・(略)
出典:e-Govポータル (https://www.e-gov.go.jp)
と、規定してあります。よって、「後援団体」というのは、「特定の公職の候補者等の主義施策を支持、又は得的の候補者等そのものを推薦・支持することが、団体の政治活動の主たるものであるもの」をいいます。
そういった後援団体の政治活動のために使用し、かつその後援団体の名称を表示する文書図画であるので、今回のような公職の候補者等の「名前入りタスキ」ではないですね。
その次に、
次に掲げるもの以外のものを掲示する行為は、第一項の禁止行為に該当するものとみなす。
と書かれています。つまり、次の各号に掲げるもの以外は、同法第1項で禁止した文書図画の掲示だと判断するよ、だからダメだよ、ということです。
その各号について、全ては説明しませんが、「名前入りタスキ」が関連しそうなのは、第3号です。
三 政治活動のためにする演説会、講演会、研修会その他これらに類する集会(以下この号において「演説会等」という。)の会場において当該演説会等の開催中使用されるもの
つまり、政治活動のためにする集会の会場で、その集会の開催中に使用するものであれば、「名前入りタスキ」でもOKということになります。
「じゃあ、政党とかが街宣でタスキ掛けてやってるのは、この第3号に当たるからイイってこと?」
と思いますが、どうもそうではないらしいのです。
法令解釈
自治体選挙管理委員会の話
上記の解釈でいけば、名前入りタスキはOKなのか。
つまり、街宣も同法第143条第16項に規定されている「集会」にあたるから、「名前入りタスキ」を集会開催中に掛けてもOKなのか、というところを、某基礎自治体の選挙管理委員会に聞いてみました。
答えは、「ノー」でした。
ただ、回答の内容があまりよく理解できませんでした。どうも法令解釈の考え方に違いがあるようです。
下記のような回答だったのですが、皆さんは理解できますか?
メール1回目
問①
演説会等には、屋外で開催されるものも含まれるのでしょうか
答①
御承知の通り、「政治活動のためにする演説会、講演会、研修会その他これらに類する集会の会場」において、当該演説会等の開催中ポスター、立札、看板、ちょうちんの類を使用することはできます。これらの演説会等会場には屋外で行うものも含まれると解します。問②
大分駅北口広場において演説会等を開催した場合、公職の候補者等の氏名を記載したタスキをかけても違反にはならないでしょうか。
答②
公職の候補者等氏名を記載したタスキを着用することは、禁止されています。ただし、候補者が選挙運動期間中に着用することは認められています。
メール2回目
問(1)答①における範囲の限定について
答①において、「御承知の通り、「政治活動のためにする演説会、講演会、研修会その他これらに類する集会の会場」において、当該演説会等の開催中ポスター、立札、看板、ちょうちんの類を使用することはできます。」とございますが、公職選挙法第143条第16項には、「公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。以下この項において「公職の候補者等」という。)の政治活動のために使用される当該公職の候補者等の氏名又は当該公職の候補者等の氏名が類推されるような事項を表示する文書図画及び第百九十九条の五第一項に規定する後援団体(以下この項において「後援団体」という。)の政治活動のために使用される当該後援団体の名称を表示する文書図画で、次に掲げるもの以外のものを掲示する行為は、第一項の禁止行為に該当するものとみなす。」と記載されており、その第3号には、「政治活動のためにする演説会、講演会、研修会その他これらに類する集会(以下この号において「演説会等」という。)の会場において当該演説会等の開催中使用されるもの」とのみ記載されております。条文を見る限り、同項では「文書図画」としか書いておらず、第3項で「使用されるもの」は「文書図画」であると読めると思います。
ご回答いただいた「ポスター、立札、看板、ちょうちんの類」というのは、「文書図画」よりも狭い範囲になると思いますが、何か限定する根拠が他にあるのでしょうか?答(1)
公職選挙法第143条第16項第3号は、掲示される形態の文書図画の全てが該当すると解します。したがって説明会の開催中、「ポスター、立札、看板、ちょうちんの類」を使用することができることを説明したものです。
問(2)答②における禁止の根拠について
また、答②について、答①では屋外での演説会等も同項第3号にいう「演説会等」に含まれるとのご回答でしたので、
屋外である◯◯駅△口広場での演説会等の開催中に使用される文書図画は、同条第1項の禁止行為に該当しないことになると思います。
(1)のご回答によりますが、タスキも文書図画に該当して禁止行為に該当しないことになると思いますが、禁止されているという根拠は他にあるのでしょうか?答(2)
公職選挙法第143条第16項においては、同項第1号から第4号までに掲げるもの以外のものを掲示する行為は禁止されています。平常時において、公職の候補者等の氏名を記載したタスキの着用は認められていません。
正直言って、埒が明かないと感じたので、図書館で逐条解説等を確認することにしました。
※なお、この解釈の問い合わせにつき、当該メールで参考として、
個別の行為や文書が公職選挙法に違反するかどうかについては、選挙管理委員会が判断したり、取り締まるものではありません。取り締まりは警察当局の担当です。
選挙管理委員会は、問い合わせがあれば行政として、指導の立場で解釈や制度の考え方をお示しすることはあります。
という内容があったのですが、そうなると、同法第147条の、
都道府県又は市町村の選挙管理委員会は、次の各号のいずれかに該当する文書図画があると認めるときは、撤去させることができる。この場合において、都道府県又は市町村の選挙管理委員会は、あらかじめ、その旨を当該警察署長に通報するものとする。
一 第百四十三条、第百四十四条又は第百六十四条の二第二項若しくは第四項の規定に違反して掲示したもの
二 第百四十三条第十六項に規定する公職の候補者等若しくは後援団体が当該公職の候補者等若しくは後援団体となる前に掲示された文書図画で同項の規定に該当するもの又は同項の公職の候補者等若しくは後援団体に係る同条第十九項各号の区分による当該選挙ごとに当該各号に定める期間前若しくは期間中に掲示したポスターで当該期間中において同条第十六項の規定に該当するもの
三 第百四十三条の二の規定に違反して撤去しないもの
四 第百四十五条第一項又は第二項(第百六十四条の二第五項において準用する場合を含む。)の規定に違反して掲示したもの
五 選挙運動の期間前又は期間中に掲示した文書図画で前条の規定に該当するもの
という規定はどう処理するのかという返信をしたところ、
選挙管理委員会は個々の行為が違法であるか否かの審査、判断を行うべき権限や義務はありません。さらに、違法行為を取り締まる立場でもありません。
なお、違法行為に対する措置は、公職選挙法第7条に規定するとおり、権限と義務のある取り締まり当局において、法の手続きにより処断されるものと考えています。
という回答が来ました。第7条の規定は、
検察官、都道府県公安委員会の委員及び警察官は、選挙の取締に関する規定を公正に執行しなければならない。
としか書いておらず、選挙の取り締まり権限を検察官等に専属させたものではないと感じるのですが、これはまた別稿で検証したいと思います。
逐条解説の説明
さて、図書館で以下の書籍を借りて該当箇所を確認してみました。
- 黒瀬敏文・笠置隆範編著、『逐条解説公職選挙法改訂版 上・中・下』、2021、株式会社ぎょうせい
- 法曹有資格者自治体法務研究会編著、『投票事務から労務・施設管理まで 公選法だけじゃない!選挙管理委員会の業務にまつわる法律問題Q&A』、2023 、第一法規株式会社
- 関口慶太・竹内彰志・金子春菜編著、『こんなときどうする?選挙運動150問150答』、2020、株式会社ミネルヴァ書房
- 三好規正著、『最新 事例解説 すぐわかる選挙運動[第四版]ーケースでみる違反と罰則ー』、2019、イマジン出版株式会社
概ね、「選挙期間中以外は、街宣とかで名前入りタスキを使っちゃダメ」という内容でした。
『投票事務から〜』には、
街頭演説は・・・(法143条第16項第3号の集会)には当たりませんので、街頭演説の場所においては、・・・使用することはできません
『投票事務から労務・施設管理まで 公選法だけじゃない!選挙管理委員会の業務にまつわる法律問題Q&A』
と明確に書かれていました。(この場合はのぼりでしたが)
ただし、こうとも書いていました。
この規制は、公職の候補者等及び後援団体の政治活動用の文書図画を対象にするものですから、これに当たらない政党その他の政治活動を行う団体の政治活動用の文書図画は規制の対象ではありません。よって、それらの団体が街頭演説を行う際に、政党名等を表示した文書図画を掲示することは可能です。
こう読むと、ここの「政党名等」に当該候補者等の名前が入っていても、政治活動用であればOKということになりそうです。例えば、政党の役職を書いて、その役職の人をわかるようにしている、と主張すれば、OKになりそうですね。
『逐条解説〜』の方では、街頭演説と演説会等を明確に区別しており、そもそも街頭演説は同法第143条第16項第3号の集会には該当しない、という解釈のようでした。
結局いいの?悪いの?
解釈の結論
以上のことを踏まえて、私なりの結論としては、
- 政党や政治団体など、普段から政治活動として街頭演説をやっている団体が、その政治活動として街頭演説をする際に、候補者の名前が入った文書図画を掲示しても違反ではない。
- それ以外に、候補者若しくは候補予定者が、個人や後援会活動として街頭演説している場合は、その名前が入った文書図画を掲示するのは違反である。
ということでした。
実際の各党の行動
実際のところ、各党による街頭演説が日々行われていますが、堂々と現職議員の名前が掲示されています。下記は平成29年の渋谷での自民党青年局街頭演説会の様子です。自民党のHPに掲載があります。総選挙公示前2日です。

また、立憲民主党も代表選挙での街頭演説で、現職議員の名前を掲示しています。下記は2024年代表選挙における、大阪での立会演説会です。立憲民主党のHPに掲載されています。

無所属の人はどうすればいい?
政党はこういう活動が認められていると思われるわけですが、では無所属の人はどうすればよいのでしょうか?
結論を踏まえると、普段から特定の選挙に向けた当選を図る目的ではなく、政治活動としての街頭演説を行う政治団体を作り、その団体として街頭演説を行えば、名前を記載した文書でも問題ないのではないかと考えます。
例えば、「〇〇市を良くする会」のように、特定の候補者の当選を目的としない政治団体をつくり、定期的に街頭演説を行います。できれば一人ではなく、複数人が話すような街頭演説が望ましいですね。
その上で、その政治団体の役職を冠した名前を文書に記載し、掲示すれば問題ないのではないか、少なくとも政党と何が違うのか、という主張ができると思います。
私も、今後そういった場を作っていきたいと考えています。それが普段から政治的主張ができる環境づくりにつながり、ひいては主権者教育や良い政治家を育てる土壌になると思っています。
賛同される方がいらっしゃいましたら、ぜひ一緒にやりましょう!
